天使力誕生物語 その1

もう28年も前のこと。

妊娠後期、あるところからぴたりとお腹が大きくならなくなりました。

お腹の赤ちゃんは育たないし、母体も調子が悪く、入院していました。

赤ちゃんは、どこかが具合が悪いみたい。毎日不安な自分との戦い。

必ず受け止めるからがんばって、生きて生まれてきてほしい。

毎日毎日、祈りました。

出産予定日の2週間前のある日、突然、お腹の赤ちゃんの心音が落ちてきました。

「すぐに、帝王切開手術!!」

と看護師さんたちがバタバタと準備を始めました。

私は祈った。
そして
お腹の赤ちゃんに「がんばってーーっ!」と語りかけていました。


その時、

その場に居合わせた医師がこう言いました。

「もう、どうせこの赤ちゃん、たぶんダメだから。

手術室、混んでいるから、後回しでいいんじゃない?」

呼吸が止まるかと思いました。
いやいやいや、
今まさに、私のお腹の中が現場。
そこで小さな小さな命が、まさに命懸けの戦いをしてるからっ!

事件は現場で起きているんだーっ!

「まだ、生きてるーっ!」
と、心の中で叫ぶも
呆然としたままで声にはならず。

そこにいた若い看護師さんたちの動きもぴたりと止まり

空気が一瞬止まった。

私は、不安が絶望に変わる。
頭が真っ白になりました。

その絶望の空気をかち割ってくれたのは、あるベテラン看護師さんの怒鳴り声でした。

「なにを言っているんですか!!

この子が先でしょう。

早くしなさい!!」

この一言でまた、部屋の空気が動き出し

生きて産まれてくることができたのです。

絶望の中に、一筋の光が突き刺さるように、射してきた。

これがはじまり。
ベテラン看護師さんは、白衣の天使でした。シェア

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稲垣 由香